2021/03/07 22:49

私は今、山林の景観をよくしている。

それは私の都合であって、山林の都合ではない。

日々与える自然環境への負荷は、コンクリートジャングルで生活する人々の何倍にもなるだろう。

地中と空中を繋ぐ太い管。

それを切る。

ある時から、声が聞こえるようになった。

「切るならオレを切れ」

おしわかった、と切った。

ある時は人の声も聞こえた。

「あの木が必要だ」

おしわかった、とまた切った。

どちらも、私には聞こえる声。

よく耳を澄ませば、どの木も言っている。

「切るなら、切られてもいい」

木は、それぐらいのことを言っている。

切る限り、意地でも枝先まで処理をする。

無駄にはしまいと祈りながら鉈をいれる。

それでも疲れがたまれば投げ出し、うまくいかなければ怒って叫ぶ。

「こんなことをやっていったい何になるのか」

こだまする自分の声に、どうせなら気持ちのいい音を響かせようと我に返る。

いったい何になるのかは、今もまだ分かっていない。

なぞの来客者だけが、明らかに去年より増えている。

ほぼ毎日と言っていいほど誰かが来る。

現場までの道のりでは、山林の手入れをはじめるじいちゃんまで現れた。

それが私と全く同じように木を並べるのだから、嬉しくなって笑ってしまう。

けれど満足するには早い。

私はもっとバカになろう。

何も知らないバカになろう。