2021/03/30 20:52

「木の太さを自慢するのはあっても、木の細さを自慢するのはオラぐらいのもんだ」

その日やり遂げた仕事にずいぶんと満足しながら、鼻の穴を膨らませていたその時だった。

ロープで一括りにしていた木が崩れ落ち、地面に散らばる。

最後の最後でミスをして、同じ作業をもう一度やるはめになった。

完全に作業を終える前から、すでに成った気でいたことに腹が立つ。

家に帰ると大量の請求書が届いていた。

冬の稼ぎは、雪と共にさっぱり消えるようだ。

キっこ林業改め、クサレ林業にしようかと思うこの頃。

けれども来月には、市場にはじめて出品した原木の入札がある。

「こったに細い木ぁ持って帰ったほうがいいんだ」

市場の人にバカにされたが、木を選び入札するのは彼らじゃない。

「太い木ぁ山さ残すもんだ」

そうは言ってやったが、確かに比べてみると他の木は4倍から太い。
しかしオラは伐採方法と時期を書き込み、一本一本に刻印を打ちつけている。
果たして買い手はつくのか?そしていくらになるのか?
誰かこの気合を買ってくれるといいな。

原木市場には、伐採届のある木なら誰でも出品できるが、あまりの価格の安さに驚き、わざわざ運んだ木を再び持って帰る人も少なくないという。

高値で売れるのは化け物のような大木ばかりで、それでも曲がりや節があればほとんどが砕かれて紙になる。

山にどれだけ木を残して切ろうが、一本も残さず切ってしまおうが、行先も売値もまったく一緒だ。

木を端から順にすべて倒していくのと、木を残しながら合間をぬって倒していくのとでは、手間はだいぶ違う。

むしろ前者は現在、その作業すべてを機械で行えるため、差は歴然としている。

大型機械化、皆伐、単一種の植林、そこには補助金という舵取りがある。

だけどもう、誰にもなんにも文句は言わない。

ホームセンターで売られる節ばかりの木や、街で売られる一本の薪が、溜め息のでるほど高い値段でも。

どれだけチェンソーで体が痺れても、真っ直ぐ歩けないほどくたびれても、まったく文句を言える立場にない。

木を切っているのはオラで、切られているのはいつも山の木々だ。

そこには感謝がしかないだろう。

ありがとう、ありがとう。

わざとらしく何度も声に出しているうちに、心が本当に感謝をはじめた。